Fanatec購入ガイド(おっさんの場合)

FANATEC

 最近のレーシングゲームは、ゲームパッドでも楽しめるようにプログラムがうまく介在し、ステアリングやアクセルペダルへの極端な入力に対して適正な補正がかかるようになっている。そのためハンドルコントローラーがなくてもそれなりに楽しめるようになっているわけだが、ハンドルコントローラーを使用した時に得られる体験には及ばない。
 グランツーリスモのヒットは、ハンコンを一般ユーザーが手に届く選択肢とした。それまでは一部のPCショップでしか手に入らなかったが、街の家電量販店やゲームショップに並ぶようになった。しかし本格的にのめり込み始めると、また別の世界が見えてくる。

” Fanatec “

 レーシングシムに魅了された者なら一度ならず何度も聞いたことのあるドイツのハンコンメーカー。商品の完成度は手に取らずとも、公式サイトの写真やネット上の多くのレビューから伝わる。多くのバーチャルレーサーを魅了して止まないFanatec。完成度も一流なら価格も一流。妥協なくフルシステムを揃えれば30万円は下らない。敷居が高いのは価格だけでは無い。ハイエンド機である”DD2″が発揮するその圧倒的なパワーは25Nmにも及ぶ。これは2.5kgの物体を毎秒ごとに1m進ませる力だ。正確な表現では無いが、2.5kgの錘を1mの棒の先端につけて持ち上げる時に必要な力くらいに考えてほしい。何度でも断っておくが、物理的に正確な表現では無い。相当な力だとイメージしていただければ幸いである。

 フォースフィード付きのハンコンを所有する者なら、この圧倒的な力を体感してみたくなって当然である。シムレーサーが期待するのは力の絶対値だけでは無い。それだけ大きなパワーを生み出せるということは、それだけ繊細に、細やかにフォースを表現し得るということだ。小石を踏みつけた時の感触から、ウォールに激しくヒットしタイヤがポロリする時の衝撃に至るまで、一体どれだけ豊かに表現されるのかに興味が止まらない。

 Fanatecは多くのシムレーサーにとっては高嶺の花だ。30万円をポンとハンドルコントローラーに出すのはもちろん覚悟のいることだが、これだけのパワーモンスターを飼いならすのにもお金がかかる。作業用机の端っこに、クランプで挟み込んで、「ハイ、出来上がり」とはいかない。十分な強度を持つフレームを組み上げ、そこにガッチリと組み付ける必要がある。シートやモニターアームも、それ用の物が必要になるだろう。そして設置するにはそれなりのスペースを要する。決して大袈裟ではなく、レーシングシム用に一部屋確保しなくてはならない。

 すこし大きな話になりすぎた。これはハイエンド機を導入する時の話だ。Fanatecにはコンシューマー向きの手ごろな製品もある。導入の初期費用を抑えつつ、他では味わえないFanatecの魅力を伝えてくれる商品が存在する。今回筆者はホイールベースとペダルにはお金をかけず、ステアリングに注ぎ込んだ。その構成を選んだ理由を紹介したい。

欲しかったのはF1型ステアリング

 筆者がThrustmasterのT300RSからの買い替えを決意した理由は、F1レーサーのようにデフやブレーキバランス、エンジンモードなどをステアリングのスイッチで操作したいからだ。筆者はT300RSにフェラーリF1 wheelをインストールして使用している。このWheelはフェラーリのステアリングを模したもので、標準のハンドルに比べて多くのスイッチを持ち、特徴的なロータリースイッチにERSやデフの操作を割り当てることができる。商品の完成度も高く、かなり満足していたが、全ての機能を割り当てるだけのスイッチを持っておらず、妥協を強いるものだった。

 そんな時、目に止まったのがFanatecのF1ホイールだ。毎年限定数が販売される本格ステアリングホイール。ちょうど2020年度バージョンがアナウンスされた。お値段も5万円を超える高級品。ThrustmasterのT300RSが5万円程度なので、ハンドルとペダルと本体のセットと、ステアリング一つが同じ値段である。これだけでもFanatecの完成度の高さを想像できるだろう。筆者は限定品ではなく、定番商品のFormula Wheelを購入した。実際に筆者が初めてパッケージを開けて実物を手にしたときは、想像以上の完成度にしばらく見入ってしまった。各スイッチ類のフィールはグッド。遊びのない、カチッとした精巧な工業製品。実にドイツらしい。筆者はかつてBMWを所有していたが、路面からのインフォメーションがハンドルを握る手にリニアに伝わってくる剛性感。テレンテレンと間延びしない、緊張感すら感じさせるそれまで経験したことのない乗り心地。それに通ずるモノとしての完成度の高さを持っている。購入前に何度も写真やYouTuber達のレビューをみていたが、そのどれもが十分に商品の完成度を伝える物ではなかった。実物を手にしてほしい。感動的だ。

The ClubSport Steering Wheel Formula V2

 はじめて対面した時の感動は、少しやり過ぎなくらい書きすぎた。少し頭を冷やして仕切り直そう。

 全てのシステム(ペダル、WheelBase、ステアリング)をPCと接続した。Fanatecでは本体をWheel Baseと呼んでいる。まずドライバーをHPよりダウンロードしてインストールする。ここで早くも躓いた。筆者はまずWheelBaseのページからドライバーをDLしてインストールした。プロパティから各種設定を行う。LEDの点灯テストやスイッチ類の入力を確認する。うっかりフォースの作動テストボタンをクリックした。次の瞬間、ガタガタガタガタと物凄い音を立てて机が揺れる。一瞬、机も本体も筆者も、何もかもが壊れてしまうのではないかと思うほどの大音量だった。もう少し長く続いていたらパニックになっていたかもしれない。なんとも絶妙なタイミングでテストは終わり、胸を撫で下ろす。
 つぎに筆者が行ったのはステアリングのドライバーのインストールだ。これが間違いだったらしい。ステアリングのドライバーをあてると、デバイスリストからプロパティへと進めない。何度か組み合わせを試して、ようやくステアリングのドライバーだけをインストールすれば良いと分かった。プロパティのタグを切り替えていくと、Firmwareのアップデートページへ進む。マニュアルには最新版に更新するように記されている。Firmwareはいつも緊張する。マザーボードのfirmアップデートに失敗すると2度と使い物にならなくなると、20年前の自作PC界では新参者を脅かすようにあちこちで言われていた。更新中に電源が落ちたり、コードをうっかり抜き差しすれば目も当てられない。アップデートに失敗したら、このFanatecのステアリングがどうなるのかはわからない、いやわかりたくもない。筆者はいつもよりも慎重に、開始のボタンをクリックした。
 表示は全て英語だが、順調に進んでいることはわかる。そして「完了」の表示が出ると、キャリブレーションが始まった。T300RSのキャリブレーションはお世辞にも良いとは言えない。グルグルぐと勢いよく回り、ガツンガツンと激しい音をたててぶつかる。それに対して、Fanatecのハンドルはゆっくりと、何かを確かめるようにスルスルと回る。決してガツンとぶつかったりしない。いよいよキャリブレーションが終わった。

???

キャリブレーションとは位置合わせ。ハンドルは中央で止まりビタっとセンターがでると思っていたが、手に取った時に感動した精巧な工業製品には在るまじき斜め25度に傾いて止まるステアリング。筆者の脳裏にはfirmwareのアップデート失敗の二文字が浮かぶ。まさか、神様。

 冷静になって何度か繰り返す。

 結果は変わらない。

 思い切ってそのままゲームを起動した。

 ダメだ。車は真っ直ぐ走らない。

 「マニュアル マニュアル」

マニュアルを探す。焦りもある、相手は全て英語。公式ページ内で見つけることができない。FanatecのYouTubeチャンネルのチュートリアル動画を見る。ハンコンは標準の円型のものだが、手順を真似て見る。なかなか複雑だ。

 ディスプレイの左にある小さなボタンを押す。普段はプリセットを切り替えるボタンだ。そして次に左右対象に据えられた、赤い上下に動くスイッチを同時に押し込む。そして電源を切り電源を入れる。キャリブレーションが始まった。祈るような気持ちでゆっくりと回転するステアリングを見つめる。

永遠にも感じる時間。

この日、筆者は神様の存在を2度確信した。

 1度目は三叉コンセントを二又にするアダプターを20年以上弾いていないピアノの上で偶然見つけた瞬間。FanatecのWheel Baseのプラグは三叉。アダプターがなければ翌日までお預けだった。本当に奇跡がおこった。多分、アダプターは何年もそこにあった。置き去りにしていた。いままで目に止まることもなかったアダプターが神様に唆され、僕を呼び寄せた。

そして2度目に神を感じたのは、ステアリングが真っ直ぐ水平に筆者の顔の前でピタッと止まって見せた時。

(つづく)

 

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