FANATEC DD1の本気レビューその3:DD1 vs CSW2.5

FANATEC

 2020年の6月に初めてFANATCのホイールベースを手に取った。エントリーモデルの「CSL Elite」を試用し、最終的にはベルトドライブのフラッグシップ「CSW 2.5」を購入した。CSW2.5から得られるフィーリングは筆者を十分満足させるもので、8Nmを誇るフォースはこれまで体験したことのない強烈なフィードバックを与えてくれた。CSW2.5の導入を契機にレーシングシムに魅了され、どんどんとその深みへとはまっていった。そして半年後の2020年12月。筆者の書斎兼コックピットにDD1がやってきた。外観やセッティングについては前回の記事を参考にされたい。今回はいよいよDD1の使用レビューをお届けしたい。
 と、その前にあらかじめ断っておきたい。筆者のレビューはすでにご理解いただいているように、科学的なデータだけに基づいた単なる比較検証ではない。公式サイトや他のレビューからは伝わらない「手に取った」レビューを心掛けている。想いを伝えたのだ。

筆者流のファースト・インプレッション

 筆者がレーシングシムをプレイする際のフォースフィードの設定には、FANATECの推奨設定を用いている。CSWを購入したばかりの頃、強烈なフォースを体験しようと100%にしてドライブしたことがあった。鈴鹿のピットロードから出てストレートを少し走っただけで「これがFANATECのフォースか!Thrustmasterとは全然違う!」とコンシュマー用ハンコンを、価格においても性能においても軽く凌駕するCSW2.5に一瞬で惚れ込み、オーナーとなった喜びに満たされた同時に、「ヤバいっ」と思わず声が出たのを覚えている。
 第1コーナーが迫ってくる。右にハンドルを少し入れて第2コーナーに向かって切り足していく。この時点で諦めた。重すぎる。8Nmは強烈なフォースだった。とはいえ両腕に真剣に力を入れれば曲がらないなんてことはない。それでもライバルとバトルしながら何周も走り続けるのは無理だと感じた。操作を誤りウォールに激突しようものなら怪我をするのではないかと心配になった。何よりも、あまりに美しいCSW2.5を愛でるがあまり、フルパワーでの使用がモーターを発熱させ寿命を縮めるのではないか、過度の負荷がベルトやアクスルなどの駆動系統を消耗させるのではないかと心配になり推奨設定を喜んで受け入れた。
 ボディー・トップをシースルーにして内部を見せるデザインは他のハンコンにはない唯一無二のものである。CSWが発売されて久しいが、筆者が知る限りこのアイデアが真似されたことはない。二番煎じを寄せ付けない圧倒的な魅力なのだ。それは内部構造を知りたいという知的好奇心を満たすものとは異なる。ドライブしているプレイヤーからは死角となり駆動している様子を見ることはできないからだ。プレイ中には見ることがなくても、レースを終えてシートから離れる時に自然とそこに目がいく。赤いプーリーがキラリと光った気がする。ピンとたわみなく張り詰めるベルトを見て、すぐにでももう一度プレイしたくなる。またCSWと一緒に走りたくなる。そんな歓びを与えてくれる。デザインとは時としてそんなものだ。iPhoneの人気が一向に衰えないのは、機能よりも所有欲を満たしてくれる造形美の賜物なのだ。

 消耗して草臥れていく姿を見たくないと思わせるほど美に溢れたCSWとは対照的に、黒い金属の塊であるDD1は寡黙で冷徹、まるでプロの仕事人のようだ。恐る恐る手を触れてみる。持ち上げてみる。重いとは聞いていたが想像を超える重量に期待値はさらに上昇する。鈴鹿の第1コーナから連続するS字を走り抜けることはできるのだろうか。CSWのフルパワーの時に感じた絶望感を超える何をコイツがもたらしてくれるのか。いつも通りの手順でエンジンに火を入れて静かにピットロードを出ていく。

 ストレートに出た瞬間に筆者の予想は裏切られた。8NmのCSWに対して20Nmを発生するDD1には走らずしてもわかるほどの能力差がある。この対決は始まる前から勝敗が決まっていたはずだった。しかし結果は違った。DD1を走らせて最初に筆者が感じたのは滑らかで、わずかなささくれもない、淀みもないフォース。意外すぎた。CSWの時に感じたものとは全く逆の衝撃が走る。ストレートを走るマシンからDD1を介して得たフォースフィードバックは、路面の凹凸をいなすサスペンションの衝撃ではない。ボディーの軋みでもない。力づくでねじ込まないと曲がらない緊張感でもない。それはただマシンが「走っていること」を伝える繊細ではあるが確かに存在するもの、うまく伝えられないが普段、車を運転する際に「音」として聞こえてくる「ロードノイズ」を、「感覚」にしたような何かだった。
 CSWのフォースが飛び込み台から水に飛び込む際に受ける瞬間最大的衝撃だとすれば、DD1は流れる水の中を、時には流れにのり心地よく流され、時には真っ向から抗いながら進む時に受ける圧力のようなボリュームか。

 筆者はもう一度裏切られた。滑らかなフォースに心酔するあまりハンドル操作を誤った。グラベルに出た途端に、連綿と続いていた角がないフォースがイバラの鞭に変わる。ガタガタと大きく振動するのはボディーに伝わる衝撃と、小さな砂利を巻き上げバラバラとボディーに石の礫がぶつかる「音」のような小さな衝撃。この二つの異なるフォースが同時にステアリングを握る手から伝えられる。何という情報量!と思うや否やマシンはウォールにヒットした。同時に「ガツんっ」と手首に痛みが走る。それまで沈黙を守っていた黒い塊からほんの僅か、咳払いしたように「ゴホっ」と音がした。

 ファーストインプレッションに続いてフォースについてもう少し紹介しよう。製品の購入を検討するなら、カタログスペックで気になるのはフォースの強度だ。2倍以上のパワーはダイレクトドライブ方式の真骨頂だろう。CSWの階段が8段だとすればDD1は20段だ。DD1の階段を使う方が、より高いところまで登っていくことができる。
 相対的にみる。ウォールにヒットした際の衝撃が最大フォース発生量だと仮定する。CSWでは、僅かな路面の凹凸からウォールにヒットする衝撃に至るまで、得られるフォースは8段階で表現されることになる。それに対して、DD1では20段刻みで表現されるため、一つ一つのフォースがより豊かなインフォメーションを持つ。その細かさも2倍以上だと言える。前項で述べた「ロードノイズ」を再現したかのようなDD1のフォースは、まさにこのきめ細かい階調が成せる技だったと言うわけだ。筆者が初めてDD1で走行した時に得た感動はまさにこの表現力の高さであった。もちろん絶対的なパワーにおいてもCSWと比べるまでもない。

 それではもう少し詳細に、サーキットにおけるコーナーごとに2つのデバイスの違いを見ていきたい。

走行インプレッション with DD1

 DD1で実際にサーキットを走行してみると、とにかく路面から得られるインフォメーションが格段に増えたことに驚く。ストレートも高速コーナーもタイトなコーナーにおいても、タイヤが路面と接地しているのがわかる。それもそれぞれ接地の感触が異なるのだ。一見無表情なストレートにも大きなうねりや小さな凸凹がある。ダイレクトドライブの階調豊かなフォースがそれらを見事に表現してみせる。うねりを乗り越えたあと、軽くハンドルをとられて進路がブレる。左右のブレだけではない。うねりを乗り越える時の「胃がすっと浮き上がる」あの感覚までフィードされる気がする。
 バンクのある高速コーナーでは、ダウンフォースで車体が路面に吸い付くようにグリップしている感覚が伝わる。アクセルを踏み込んでいく。シュルシュルとタイヤがグリップする音が少しずつ輪郭をはっきりさせると同時に、「ブルブル」、いや違う、「プルプル」ーこれでもない。「フルフル、シュルシュル」くらい微細ではあるが確かに存在する振動が伝わり始める。振動なのか、それとも音なのか、もはや判別できない。脳が騙されている感じが心地よくてたまらない。筆者が収まるコックピットは、今はサーキットのアスファルトの上にあるのだ。これ以上踏み込めばおそらくリアがグリップを失いスピン状態に入っていくのだろう。その限界点が伝わってくるような気がする。
 そして何よりもタイトなコーナーがビタっと決まった瞬間は極上だ。ブレーキを踏み込んで前輪へ荷重が移動する。クリップに向けてハンドルをクイッときる。グリップを発揮したタイヤが仕事を始めると、まるでレールに乗ったようにマシンが滑らかに旋回する。繰り返そう。DDのフォースはパワフル且つリッチであり、どこまでも繊細だ。タイヤが路面をグイグイ欲しがるようなグリップと、いまにもマシンを外へ弾き飛ばそうとする遠心力との微妙なバランスを見事に表現している。そして両者の微妙な駆け引きを終えてアクセルを踏み込みコーナーを脱出する時、筆舌に尽くし難い満足感に満たされるのだ。
 
 もう一つDDのフォースのきめ細かさを感じるのが縁石に乗り上げた時のフィードバックだ。縁石というと筆者は洗濯板のような形状を思い浮かべる。その上をマシンが通過すればガタガタと音を立て振動する。CSW2.5はまさにこんな感じで、ガタガタガタガタ、とハンドルが激しく振動する。しかしながら、縁石にもさまざまな形が存在する。ショッピングモールの駐車場に設置されている、ドライバーに徐行を促す高さのある縁石から、色を塗り分けただけのアスファルトとほとんど変わらないものまで、サーキットの縁石も多種多様だ。CSW2.5でプレイしていた時は縁石はどれも同じ縁石だったような気がする。どれも同じようにガタガタガタガタと震えるのが縁石と、いつの間にか筆者の頭にインプットされていた。DDでは事情が違う。縁石に乗り上げた時の振動が違う。「ガタガタガタガタ」ではなく、「ぶぅぅぅぅぅぅんー」と低く唸っている感じなのだ。オンとオフが素早く切り替わる類のフォースフィードではなく、アスファルトとは明らかに異なる路面状態をベースに表現しつつ、そこに小さな振動の波を作り出している感じがする。また「かまぼこ」と呼ばれるアゴの高い縁石に乗り上げると「ガツんっ」ときてウイングが砕け散り、場合によってはマシンが宙を舞うこともある。

 ダイレクトドライブが作り出す圧倒的なパワーは、威力だけではなく触感にいたる表現の幅を持っているのだ。

工業製品としての完成度

 さて、気になる工業製品としての完成度についてお話しておこう。まず、DD1はとても静かだ。勢いよくウォールに激突した時は「ごほっ」と音を立てる時もあるが、気持ちよく周回を重ねている限りは、そのリッチなインフォメーションからは信じられないくらい音がしない。CSW2.5は大きくガタガタと音がすることは珍しくなく、サーキットを流しているだけでも常にファンの音がしていた。別の記事にも書いたが決して不快な音ではない。ThrustmasterのT300のファンの音は正直小さくはなかった。加えていつ熱暴走を起こしフォースが途切れるのかと案じねばならず、精神的にもストレスのかかる嫌な音だった。CSWにはそういった心配は一切なかったが、それでも音はしていた。不快な音ではないが、プレイをやめてからもファンはしばらく回り続けていることがあった。それがDDでは全くファンの音がしないのだ。ひと月ばかり毎晩プレイしているが、ファンの音をはっきりと聞き取ったことはまだない。本体に手を当てても、暖かくなっていることはまだない。金属の塊、DD1は屈強な相棒だ。

 DD1はそんな物理的な強さをもちながら、兄貴分のDD2にはソフト面でのトラブル報告が散見される。OSのアップデートや、DD本体のファームウェアの更新などをきっかけに、フォースが発生しな不具合やPCに認識されないエラーなどが出ているようだ。幸いなことに筆者は一度も不具合に遭遇したことはない。いつも同じように動いている。ただ一点気になることのは、説明書には本体裏のボタンを数秒押して電源を切ると記されているが、筆者のDDは数秒どころか2秒もかからずに電源が落ちる。特に問題はないが、マニュアルの表記と異なるのは少々気になるところではある。ちなみに筆者が所有するそのほかのデバイスも大きな不具合は出ていない。ステアリングのパドルスイッチの接触を一時期疑ったが、筆者のドライビングスキルによるミスだったことが後に判明した。その時もFANATECのサポートは迅速に対応してくれ交換パドルを2つも送ってくれた。その時にドイツのサポートの方と交わしたメールの中で、思いがけずF1の話題で盛り上がったのもいい思い出だ。
 ネットを見ているとFANATECのサポートが十分でない事例も存在するようだが、もしかしたらサポートスタッフによって対応が異なり、サポートの質の均一化がはかれていないのかもしれない。すくなくても筆者にとってFANATECのサポートはいまのところ二重丸。いやいやその前に製品の品質にも十分満足している。

DD1 vs CSW2.5 の結論は

 筆者はCSW2.5を半年使用して、DD1を買い増した。CSWに不具合が生じたわけでも、具体的な不満があったからでもない。レーシングシムにのめり込み、この先長く趣味として続けていけると確信したため投資したのだ。筆者のことはさておき、これから購入するレースシムを本格的な趣味とする読者のために、筆者からのアドバイスでこの記事を締めくくろう。

 現在、ThrustmasterやLogicoolを使っているのなら、すぐにCSW2.5への買い替えをおすすめする。決して安くはないが、6万円で本格的なハンコンを手にすることができる。デバイスとしての本来の機能はもちろん、工業製品としての美しさも所有欲を満たしてくれることだろう。一足飛びにDD1へいくのはどうか?条件が揃えばそれもいいだろう。筐体を設置するコックピットはマストアイテムだ。モニターアームも忘れずに。シートも筆者のようにゲーミングチェアを解体して使い回すか、バケットシートを思い切るか。いずれにしても何か準備する必要がある。一度にどかんと投資できるなら、DD1を購入するのアリだ。対して筆者は回り道をしている。振り返ってみれば余計な出費もあった。それでも少しずつお金と時間をかけながら買い替え、買い揃え、環境を構築していくのも楽しみの一つと思えばそれもいい。いや、そのほうがいい。

 次にCSW2.5ユーザーのみなさんへのアドバイス。半年使用したなら買い増してもいいのでは。筆者という前例がある。筆者にとっては間違いのない買い物だったと断言できる。半端な投資ではないが、リターンは大きい。飛び級でSimcubeを検討するのもいいだろう。しかし海外からの購入となりサポート面で多少の不安が残るし、ステアリングの取り付けにもいくらの出費を覚悟しないといけない。筆者はおそらくSimcubeを次のステップとするだろうが、DDが壊れるまでは使っていたいと心底思える。CSWの時はそこまでの気持ちにはなれなかった。買い増しが少しでもあなたの頭をチラついたなら、もうそこに立ち止まっている理由はない。

 まだCSWを購入してまもないのなら、ペダルやシフト、ステアリングなどに投資する方が楽しいと思う。CSWとDDには圧倒的な差があるが、ホイールベースということに変わりがない。シム環境がアップグレードしてもスケールアップするわけではなし、もし筆者なら色々と別のものを充実させる方を選択するだろう。実際にCSWを購入してからモニター、ロードセルブレーキ、シールセット、鋼材コックピット制作と環境の構築を進めてきた。そうこうしているうちに半年が過ぎていた。そんなタイミングがDDデビューの頃合いなんだと思う。

 さぁ、これでDDレビューを一旦完結させよう。CSWの内部の動きを撮影したり、本体からでる音を録音したりと、今回のレビューに当たってDDとCSWを頻繁に取り替えてはプレイした。楽しい一ヶ月を過ごすことができた。ずっとお付き合いをしてくださった皆様。ありがとうございました。その1、その2がまだの方は、ぜひ下記リンクよりご一読ください。今後ともおっさんのブログをよろしくお願いいたします。(ブログもチャンネル登録みたいな機能があればいいのに…)

関連リンク1 :FANATEC DD1の本気レビューその1:購入の理由
関連リンク2 :FANATEC DD1の本気レビューその2:ダイレクトドライブのススメ

PS おっさんはウイスキーが好きだったりする… グレンフィディックがオススメです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました