フライトシムの世界へ
「空を自由に飛びたい」いや、自由に飛びたいのではない。
エアラインのパイロットのように、フライトプランを作成し計器を使って精密に飛行したいのだ。
フライトシミュレータを楽しむ人は大きく二分される。
エアライナー(民間機)や自家用飛行機の運行を楽しむ人と、戦闘機に乗り込み戦地へと赴く人である。
そして両者共に、カジュアルに楽しみたい人とストイックなまでにリアルを追求する人にさらに二分される。
筆者はエアライナーをリアルに飛ばしたい派である。
とある空港の駐機場から目的地まで安全かつ精密に飛行することに喜びを感じるタイプである。
そこにはドラマティックなことはほとんどない。民間機の機長たるもの、お客様が安全快適な旅をするお手伝いをするのが使命であって、インシデントやアクシデント、ほんのわずかなスリルでさえも不要だ。
一方で軍用機を題材とするものは一味違う。
エースコンバットに代表される戦闘機を題材にしたフライトシム(シムというよりもゲームかな)を楽しんだことのある人は一定数いらっしゃることと思う。
そこには明確な目標そしてエンディングが用意されている。自分で用意しなくてならないものは何一つない。難しいことは抜きにして爽快感や緊張感、スリルを味わうことができるのだ。
筆者が愛するフライトシムは、基本的には明確な目標も終わりもない。PCを起動してフライトシムをスタートさせれば、あとは出発空港も目的地も、なにもかもを自分が決定しなくてはならない。
しかしながら近年のマイクロソフト・フライトシミュレータ(以下、MSFS)には、「ミッション」なるメニューが追加されており、特定の条件のもとでの着陸精度を競うシナリオや景勝地などをめぐるツアーなど、マニアでなくても楽しめるように工夫されている。このおかげでたくさんの新規ユーザーを獲得できたのではないだろうか。
それらは十分な数とバリエーションが用意されていて、これらを楽しむだけでも十分に元は取れる。しかし本質的にはユーザーが自分で遊び方を決めて楽しむのがMSFSの大前提であることには変わりがない。
みなさんには、今、飛び立ちたい空港と目的地となる空港があるだろうか。
普通はない。
フライトシマーでなければ、そんなものはないのが普通である。
私にはある。
今日の夜は、下地島から宮古島まで訓練飛行を行う予定である。
筆者は二十数年ぶりにフライトシムの世界に戻ってきた。
当時、自作PCにはまったのと時を同じくしてフライトシムにのめり込んだ。
PCのスペックをあげてもあげて満足にフレイムレートが上がらず、様々な設定を試しては快適に飛べる落とし所をさぐっていた。
書籍を買い漁り読み漁り、パイロットたちが実機をいかに安全に航行させているかを学んだ。
ネットでは実際のパイロットの方とも知り合いになり、アドバイスをいただいた。
海外からアドオンの機体をとりよせた。
当時は通信速度も遅く、大容量を必要とするシーナリー(地形や景色のデータ)にダウンロード販売はほとんどなかった。DVDが何枚もセットになったパッケージが週末の朝に届いては、興奮してインストールしていたのを覚えている。
そうやって知識を深め、技術を磨き、ネットの世界ではパイロットとして、ときには管制官として国内外の多くのフライトシマーたちと楽しい時間を共有したものだ。
ヘッドセットは必需品。駐機場からエンジンを始動させるときから全てが始まる。
何一つ勝手に進めていけるものはない。ネットの向こうにいる管制官役の相手に対してマイク越しに逐一クリアランス(許可)を求める。
エンジン始動、目的地への出発承認、滑走路までの走行、そして離陸。
それぞれの段階で自らの機体対して行う操作と管制官への連絡、地上スタッフへの指示などを的確に行なっていく。
飛び立ってからも交信する無線周波数を切り替えながら、つねに航空管制のもとに飛行を続ける。
世界中のユーザーがバーチャルな世界をバーチャルな航空管制にしたがって飛行する。
今思い出しても、なぜあんなことが実現していたのか理解できないほどリアルな世界が広がっていた。
残念ながらアメリカでおきた同時多発テロの影響もあり、フライトシムの世界は縮小を余儀なくされやがては閉鎖されていった。
それと同時に新作の開発と販売は凍結され、私を含む多くの愛好家たちがフライトシムの世界を後にした。
そして20数年をへて、昨年、MSFS2020が発売された。
レースシムにはまっていた私は一度は華麗にスルーしたのだが、頭の片隅にいつもその存在がとどまっていた。
あるとき私はふと気がついた。
部屋にはモニターが3枚設置され、目の前にはF1を模したステアリングと足元にはアクセルとブレーキペダル。そしてレカロシートと、それらを設置するアルミフレームがある
SteamからMSFSをダウンロードし、スティックとスロットルを買い揃えれば、すぐにレースシートはフライトコックピットへと様変わりするではないか!
自分に都合の容易ように解釈すれば、
レースシムとフライトシムは、いわば血を分けた兄弟のように共通点が多いのだ。
レースが嫌いになったわけではない。飽きたわけでもない。F123が発売される直前でもあった。
レースへのモチベーションは変わらず高かったが、衝動を抑えることはできずボーナスの支給と誕生日であることを後ろ盾に、自分へのご褒美という大義名分のもと、必要なもの全てを買い揃え、空へと旅たつ準備を完了させたのだ。
ということで、なにやらグダグダと御託を並べ立てましたが、要するにレースシムを一時休止してフライトシムを楽しんでいきます。
そしてその様子を皆さんと共有できればと思っております。
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